最近の研究テーマ
1.水田地帯の自然再生

   

 水田は、かつて氾濫原湿地を利用していた動植物に棲み場や採餌場を提供するため、湿地環境の生物多様性の宝庫となっています。しかし、国内の水田地帯では、農業の集約化と管理放棄といった二つの影響を受け、農地の生物多様性が著しく減少しています。水田地帯の生物多様性は、地域社会・経済の衰退と密接な関係があります。
 そこで、水田地帯の生物多様性と地域社会・経済を再生するため、全国の水田地帯で、減農薬・減化学肥料栽培等に基づく環境配慮型農法(環境保全型農法と呼ばれる)への取組みが進められています。
 本研究では、広域野外調査や、自然実験、野外操作実験を通じて、環境配慮型栽培の取り組みが水田の生物多様性や環境負荷に与える影響について検討します。また、経済学分野の研究者と連携しながら、水田地帯の自然再生を持続的に推進するための地域社会づくりや支援社会づくりの研究に取組みたいと考えています。

関連論文・著書

Usio N & Miyashita T eds. (2015) Social-ecological restoration in paddy-dominated landscapes. Ecological Research Monographs, Springer, Tokyo

Nakamura S, Tsuge T, Okubo S, Takeuchi K, Usio N (2014) Exploring factors affecting farmers' implementation of wildlife-friendly farming on Sado Island, Japan. Journal of Resources and Ecology 5: 370-380.

西川潮(2012) 淡水生態系−多様性、変動性、閾値に配慮したマネジメント 『エコシステムマネジメント』 (森章 編著).共立出版, pp.217-236


2.ため池の保全管理

   

 ため池は、かつて氾濫原湿地で見られたさまざまな希少動植物の避難場所となっています。しかし、近年ため池では、生物の侵入や、土地開発、水質汚染、管理放棄などの影響を受けて、環境劣化が著しく進んでいます。これまで、野外調査や、社会調査、経済評価を通じて、ため池生態系の劣化要因の解明や、多面的機能に配慮した管理方法の検討に取り組んできました。

主な研究成果は以下の通りです。
1)兵庫県南部のため池高密度地帯において、伝統的なため池の管理方法である池干しが、ため池の生物多様性や、外来種の駆除、水質に及ぼす影響を明らかにしました。
2)全国の一般市民を対象としたインターネット・アンケート調査を通じて、水辺の在来・外来種の保全・管理に関する人びとの意識と支払意志額を明らかにしました。

関連論文・著書

Usio N, Imada M, Nakagawa M, Akasaka M, Takamura N (2013) Effects of pond draining on biodiversity and water quality of farm ponds. Conservation Biology 6: 1429-1438.

西川潮,宮下直 編著(2011) 『外来生物―生物多様性と人間社会への影響』.裳華房




3.ザリガニ類の生態と保全管理

   

 ザリガニ類は、陸水環境の食物網構造の維持形成や生態系プロセスにおいて主要な役割を担うキーストーン種です。これまで、ニホンザリガニやシグナルザリガニ(ウチダザリガニ)、アメリカザリガニを主な対象として、これらの生物多様性・生態系への影響や、分子系統地理、さらには保全管理手法の検討を手がけてきました。
 近年は、ワシントン大学やオレゴン州立大学、北海道大学の研究者らと共同で、外来種シグナルザリガニの在来生息域と侵入生息域間での生態ニッチや、遺伝的変異、外部形態、行動の集団内・集団間比較を進め、侵入成功の鍵となる要因の解明を目指しています。

関連論文

Larson ER, Abbott CL, Usio N, Azuma N, Wood KA, Herborg L-M & Olden JD (2012) The signal crayfish is not a single species: cryptic diversity and invasions in the Pacific Northwest range of Pacifastacus leniusculus. Freshwater Biology 57: 1823-1838.

Koizumi I, Usio N, Kawai T, Azuma N, Masuda R. (2012) Loss of genetic diversity means loss of geological information: the endangered Japanese crayfish exhibits remarkable historical footprint. PLoSONE 7: e33986.

Larson ER, Olden JD & Usio N (2010) Decoupled conservatism of Grinnelian and Eltonian niches in an invasive arthropod. Ecosphere 1: Article 16.

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 更新日:10.28.14